2014/10/13

【番外編】Frankfurter Rundschauの長谷部誠インタビュー

長谷部誠
「本から自分のインスピレーションを得る」
http://www.fr-online.de/eintracht-frankfurt/makoto-hasebe--aus-buechern-ziehe-ich-meine-inspiration-,1473446,28719302.html


INGO DURSTEWITZ & THOMAS KILCHENSTEIN

写真キャプション:サッカー哲学者、インタビューにて。写真:Jan Huebner

アイントラハト・フランクフルトのミッドフィールダー長谷部誠が、ドイツでの平穏な暮らし、日本における熱狂、『心を整える』――そしてフリードリヒ・ニーチェの教えについて語る。

長谷部誠・30歳は、週末の休日をパリへの小旅行にあてた。少しばかりショッピングをして、友人と会い、和食レストランでおいしい食事を堪能する。「いいんじゃないでしょうか」。フランクフルトのミッドフィールダーは、その前にフランクフルター・ルントシャウのために時間を設け、自身について詳しく語ってくれた。ブンデスリーガで156試合に出場(5ゴール)している彼は、インタビューが進むにつれ、心を開いていった。Hase(※訳者注:ドイツ語でウサギの意)という愛称を持つこの聡明な日本人は、物事の背景を探るのが好きで、「既定のことだ」と甘受は決してしない男だった。

長谷部さん、資料をぱらっと見させてもらったのですが、そこで驚くべきネタを発見しました。あなたは本当はゴールの中でもプレーできるそうですね
ゴールで?どこからそんな話が?

そうですね、これは大げさな表現だったかもしれません。しかしブンデスリーガでゴールに立ったことはありますよね。フィールドプレーヤーでそう言える人はあまりいません
ああ、あのことですか。まだヴォルフスブルクにいた時の、ホッフェンハイムの試合だったと思います。キーパーに2枚目のイエローが出てしまったけど、交代枠はすでに使い切っていた、それで誰かフィールドプレーヤーがゴールに入らなければいけなくなって。

それで立候補したのですか
僕が?違いますよ。フェリックス・マガト監督がそう決めたんです。

なぜです?ユース時代にキーパーをしたことがあるのですか。練習でやっていたとか
いえ、全然。マルコ・ルスもその試合に出ていたのですが、彼がゴールに入る気でいて、マガト監督にも尋ねたんです。でも監督は僕に入れと。それだけです。どうしてなのかはわかりません。僕が入ってさらに1失点して、結局1‐3で終わりました。まあ、いい経験でした(笑)。

ずっと中盤でプレーしてきたのですか
そうですね、守備的ミッドフィールダーの守備型だったり攻撃型だったり。でもヴォルフスブルクではあらゆるポジションでプレーしました。右サイドバック、左サイドバック、右ウィング、左ウィング、プレーメーカー、ゴールキーパー……やらなかったのはセンターバックとセンターフォワードだけ。それ以外は全部やりました。

写真キャプション:もっとゴールを脅かす存在に――長谷部誠。写真:Stefan Krieger

これぞフェリックス・マガトですね。厳しかったでしょう
ええ、僕にとっては間違いなく一番きつかった時期ですね。メディシンボールのことは前から知っていましたが、サッカー繋がりで知ったわけではなくて。でもうまくいってドイツチャンピオンになりましたからね、僕らは。ジェコとグラフィッチが前線にいて、その二人で50ゴール以上決めて、その後ろにはミシモヴィッチがいて――それだけでもすごい。そういうチームでプレーさせてもらえたのは幸運でした。僕自身成長しましたし。フェリックス・マガトには感謝しなければいけません。僕を日本から獲得してくれた。彼にしてもらったことは決して忘れません。

どうしてもヨーロッパに来たかったのですか。浦和レッドダイヤモンズだってなかなかいいクラブですよね、日本のバイエルン・ミュンヘンと言われていて
ええ、在籍当時AFCチャンピオンズリーグで優勝しました。でも、ブンデスリーガに移籍するチャンスがあるなら掴むべき。僕が日本にいた当時の監督はギド・ブッフバルトとホルガー・オジェックでしたし、常にドイツ人がたくさんいたわけです。

ウーヴェ・バインも浦和に移籍しましたが、これはずっと前の話ですね。あなたがウーヴェ・バインについて耳にすることも最早ないでしょう
ウーヴェ・バインのことはもちろん知っています、面識はありませんが。彼が来た当時、僕は14歳でした。すばらしい選手で、足は左利きで、10番だった。知ってますよ当然。

高原直泰もフランクフルトからレッドダイヤモンズに行きましたね
そうです、彼は3部リーグで今もプレーしていて。35歳になりましたが、元気にやっていますよ。

4年前にドイツに来た時はいかがでしたか。ヴォルフスブルクは世界の中心地というわけでもありませんが
初めの2年は大変でした。全く新しい生活に新しい文化に新しい言葉。それにヴォルフスブルクは小さい街ですし、日本を懐かしく思い出せるものは何もなくて。和食レストランもないし、日本人もいない。完全にひとりぼっちでしたね。

でも家族や奥様がそばにいたでしょう
いえ、僕1人だけでした。独身だし誰もいなくて。大変だったけど、自分にとっては良かったとも言えます。

良かった?言葉を勉強する必要に迫られたからですか
それもあります。最初の3か月は通訳の方に付いてもらいましたが、3か月経つとその必要もなくなりましたし、その必要をなくそうとも思っていました。ひとりでうまくやっていく、ひとりでどうにかやっていきたかったんです。まあうまくいった方だと思います。

全て独力でやるというのは、あえて意識しての決断なのですか
プロになったのは12年前ですが、以来ずっと全て自分でやってきました。これからもそれは変えたくないです。

本質的なことにより集中できるということでしょうか
そういうことです。横道に逸れることなく、自分の時間の「流れ」と必ず行う「儀式」を持つ。僕はサッカー第一でやっています、プロですから。


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フランクフルトでは自由に行動できていますか。それとも道を歩いていて気付かれますか
いえ、こちらで気付かれることはないです。日本人以外にはという意味ですよ。街の散策や散歩にも出かけましたし、レストランにも行っています。ここには日本人がたくさんいて、ハウゼン地区に住んでいる人が多いです。日本人学校があるんだと思います。

ご自身の国では、道を歩けば大きな人だかりができてしまうのでしょうか
そうなるかもしれません、こちらとは違いますね。東京で食べに行く時は必ず個室があるレストランです。道を歩くのはなかなか難しい。無理ですね。1300万人が住んでいるのに(笑)。

そっとしておいてもらえるのと、気付かれて注目されるのとではどちらがいいですか
落ち着いた環境の方が好きですね。だから現役引退後ドイツに残る自分も想像できるんです。整然としているし落ち着いている。僕にはぴったりです。

フリードリヒ・ニーチェをドイツ語で読んだという話は本当ですか
ニーチェは読みましたが、ドイツ語でではないです。ドイツ語でだったらちょっと難しかったでしょうね(笑)。2010年の南アフリカワールドカップに本を3、4冊持って行ったのですが、その中にニーチェもありました。彼の教えと哲学が好きなんです。とてもいい本ですよ。頭に効きます。

あなたは知識人だとか、本をよく読む博識家であるとか、他のプロ選手とは何か違うと言われています。心を強くするための自分なりの方法があるのですか。瞑想?ヨガ?
ええ、例をひとつ挙げましょうか。寝る前に心を静めるんです。精神を集中し、深呼吸して、自分の後ろと前にあるものを考える。つまり、今日は何をして、何を経験したのか。明日は何をするべきなのか。そうやって心を静める。すると頭で心拍をコントロールできるようにもなります。

そうやって自分に向き合うのにはどれくらい時間をかけるのですか
ばらばらです。10分の時もあれば30分の時もあります。

それ以外の方法は
お湯に浸かります、毎晩。僕ら日本人はほとんどみんなそうしています。「シャワーをする」のではなく、「お風呂に入る」んです。それもしっかり熱いお湯、42、43℃のお湯に15、20、30分間と。心が休まって、筋肉もほぐれます。でも試合2日前からはお湯に浸かることはしません。

本もたくさんお読みになるとか
はい、いつも長時間。インターネットは好きじゃなくて、めったに見ません。もっぱら読書です。哲学的なものがほとんどです。本から自分のインスピレーションと力をもらっています。今読んでいるのは村上春樹(編集部注:最も有名で影響力のある日本人作家の一人。文学賞を多数受賞している)です。

ブックフェアにも行きましたか(※訳者注:フランクフルトの書籍見本市は世界的に有名)
いえ行ってません、人が多すぎて(笑)。

ご自身でも本をお書きになっていますね――„Die Ordnung der Seele – 56 Gewohnheiten, um den Sieg zu erringen.“(※訳者注:『心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣』の独訳)。これはどういった成り行きで
マネージャーが以前からよく問い合わせを受けていたのですが、僕はいつも断っていました。でもアジアカップで優勝した後、2011年に承諾しました。

何が書かれているのですか
ああ、要するに僕が何を考えているのか、つまりどう生活しているのかというだけの話です。処世訓とも言えるかもしれません。例えば常に前向きでいるとか、「整理整頓は人生の半分(※訳者注:ドイツのことわざ。直訳。良い人生には整理整頓が不可欠という意)」だとか。そういう内容の章も入っています。

えっ
僕はそう考えています。掃除はこまめにするし、いつもきちんと片付けています。僕にとって整理整頓は大事なこと。頭のためにはいいんですよ。

自らお書きになったのですか
ほとんどの部分はそうです、はい。もちろんそこから編集はしてもらいました。

本を書くのは引退後を考えてのことなのですか
いえ、もう書きません。これきりです。その本の中でかなり自分をオープンにしてしまっているからです。日本人全員が僕の考え方を知っているということになります。あれはすでにかなりプライベートに迫っている。もう一度やってみようとは思いません。

よく売れましたね
ええ、140万部売れました。

そしてそのお金は福島原発事故の被害者のために寄付しました
はい。本は1冊10ユーロ。それだけでかなりの金額が集まったことになります。そのお金で、例えば津波で流された福島近辺に幼稚園を造ってもらいました。これまでに3、4回訪問して、子どもたちとサッカーをしたりして遊びました。すごくうれしいことです。

ユニセフ大使にもなるそうですね
ええ、この冬に。そうしたらインドネシアとスマトラ島に行きます。過去に津波に襲われた地です。そこに行って大使としての役目を果たす予定です。

サッカー選手が大使になるのはよくあることではありませんね
僕は日本代表のキャプテンです、というかキャプテンでした。キャプテンというのは高い名声を得るし、社会にまで影響力がある。憧れとされます。ぜひ僕はそうありたい。僕には特権があり、プロサッカー選手で稼ぎはいいじゃないですか。すると何かの形で還元したくなる。自分にとっては当たり前のことです。

ちょっと引っかかることが――キャプテン「でした」と言いましたね。実際に免職されているのですか
わかりません。今回代表に招集されなかった。それ以上のことはわからないです。

そうなんですが、でもこの国でフィリップ・ラームだったり、バスティアン・シュバインシュタイガーだったり、マヌエル・ノイアーが何の理由もなく代表に招集されなかったとしたら――凄まじい叫び声が上がるでしょう。日本ではそうならないのですか
わかりません、僕は日本の新聞をインターネットでも読んでいませんし。だからわからないんです。こっちで僕に付いている日本の記者の方たちに聞いてみますか(笑)。

招集されなかったことには腹が立ちましたか。それともがっかりしたのですか
悲しかったです、もちろん。でも日本代表のことはこれで終わったものとは思いません。いいプレーをしていれば、きっとまた呼ばれるでしょう。

でも以前は代表戦に招集されていましたよね、膝の問題で早々にフランクフルトへ戻ることになりましたが。代表監督がそれで気を悪くしたのだとは思いませんか
わかりません。そのことについては何も言えません。

話は変わりますが、私どもには気になることがありまして。ピッチ上のあなたは常に控えめで愛想のいい典型的日本人選手、ではありませんよね。ピッチでは臆せず、よく審判と議論してクレームをつけています。これは日本人では全く見られないことで
自分のプレーに必要なんです。僕はどちらかといえばカッとなりやすい方で。僕のモチベーションです。

乾貴士の力にはなれましたか
彼は夏に新しいスタートを切りましたが、なかなかうまくいきました。今では理解できることも増えていますし、今またドイツ語の授業を受けていますからね。僕はできる範囲で手を貸します。もっとドイツ語を勉強しろと彼にはずっと言ってきたんですよ。僕の方も彼にすごく助けられています。フランクフルト案内、例えばどこにレストランがあるかとかを教えてもらって。

乾に試合中よくパスを出しているような気がするのですが
その通り。偶然じゃありません。

ここまでのチームの結果には満足していますか
はい、いい感じだと思います。勝ち点はもっと取れたはずですけど。

アイントラハトに来てすぐ、高い目標を口にしていましたね。チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグの出場権が得られる順位のことを
ええ、でもこれは僕の個人的な意見だということを強調したいです。監督やクラブがどう見ているのかはわかりません。できる限り多くを達成するには、高い目標を定めなければいけないというのが僕の考えです。

ご自身のパフォーマンスには満足していますか
まだまだもっといいプレーができるはずです。ボールを早く、大きなリスクを冒してでも前へ出すことにトライしていて。これは監督が僕に期待していることでもあるんですが。でも僕はもっとゴールを脅かせるはず。これもそのうちきっとできると思います。


Interview: Ingo Durstewitz & Thomas Kilchenstein



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